闘将・星野仙一監督就任、そして歓喜の胴上げ

 そして、星野仙一という男がタイガースにやって来た。
 野村の推薦によりタテジマのユニフォームに袖を通す事になった星野監督。正直言ってどうなのかな?と思った。ジャイアンツ戦で見せる闘志を観ていて、燃える男・星野仙一のことは以前から好きでしたが、采配・戦略的には野村の方が上だと思ったし、イメージ的に「珍プレー好プレー」に出て来る、ベンチのゴミ箱を蹴る、乱闘になったら一番にベンチから出て来る、そして相手の胸ぐらを掴む‥‥というイメージが先行していたもので。でも人気球団ゆえの甘さがタイガースの選手の中にあったので、鉄拳制裁を加えられるカミナリオヤジ的な存在も面白いかと思った。また、以前星野中日が優勝した時に選手からの信望が厚かったという話を聞いていたのでその点でもいい方向に向いてくれるのでは?と期待しました(野村のときはアレだったので)。ところが、星野監督はまずフロントの改革から始めた。これには驚きました。阪神ファンとして、どうしようもないフロントの体質は諦めていたから。星野は監督の枠に捕われず、GM的にフロントと現場が一体となって勝てる集団を作り出そうとしていました。積極的にトレードを行い、FAでの補強を敢行した。また、選手にも常に競争意識を持たせ、危機感を煽った。その結果、長年の腐り果てた体質そのものを変えてしまった。これが功を奏し、2002年の開幕戦、井川が巨人打線を抑え込んだ(試合終了後、監督が井川を抱きしめたのが印象的でした)。その流れに乗った阪神は開幕7連勝を果たす。いつもと違うタイガースを観た。そしてその勢いはしばらく衰えることはなかった。いける。今年はいけるぞ。何度も裏切られているにもかかわらず、ひょっとしたらという想いを消す事は出来なかった。結果は‥‥やっぱり裏切られた。矢野の戦線離脱とともに、ズルズルと後退していった。借金4の4位。今年もBクラスを脱出する事は出来なかった。しかし今年は今までと違う。選手が、優勝に向かって本気になっている。序盤に点を取られても、最後まで諦めない試合をやっている。鳥肌が立つ試合も数えきれなかった。そこには、去年までのダメ虎の姿は無かった。星野監督はシーズン最終戦が終わった後、甲子園のグラウンドでファンを目の前にして力強く宣言した。
「来シーズンこそは必ず、皆さんの悔し涙を嬉し涙に変えようと選手と誓い合っています。来年、楽しみにしていてください。」
その言葉を実現するために、星野はオフも積極的に動いた。24人もの大量解雇、金本、伊良部の獲得。星野の男気と熱意に動かされての入団だった。優勝のためには手段を選ばなかった。
 そして、怒濤の2003年のシーズンを迎えました。
しかし、期待して望んだジャイアンツとの初戦では采配ミスにより4点差を追いつかれてしまった。指揮官はこの夜、ナインに詫びた。ところが、逆にこれがナインの奮起を呼んだ。翌日から鬼の様な快進撃を続けたのだ。他にも、6点差をひっくり返した試合もあった。85年以来となる、3者連続ホームランも放った。昨年以上に、背中にゾクゾクするものを感じた。信じられない様な試合が何試合もあった。そしてついに、7月9日、セリーグの最速記録でマジック49を点灯させた。言葉にできない感動があった。85年、マジック22が点灯した日の事を思い出しました。長かった。長いなんて言うもんじゃなかった。でもまだ優勝が決まったわけではない。ぬか喜びするのはやめよう。なにしろ、今まで騙され続けてきたんだから。
 それでも、今年のタイガースは違った。通称死のロードでは失速したものの、苦しみながらもマジックを減らしていった。複雑な気分だったのですが、マジックが減っていくのがもったいなく思った。このままずっとこの状態が続けばいいと思った。タイガースが強いシーズンが終わりに近づくのがとても寂しく思えた。その答えを待ち望んでいたはずなのに。
 そして、その日はやって来た。一点ビハインドの8回裏、片岡が同点ホームラン。さらに9回裏、ヒットと敬遠のフォアボールで1アウト満塁の場面、星野監督からアドバイスを受け打席に立った赤星は見事にライトオーバーのヒットを放つ。サヨナラ勝ち。沸き返る甲子園。今年、こんな感動的な試合を何度も見て来た。最後まで選手達はカッコよかった。この時点でマジックは1。ナイターで予定されている試合でヤクルトが負ければ優勝となる。甲子園のファンは誰も帰らずに、その瞬間を待っていた。そして、ヤクルトの敗戦。歓喜の渦の中心で星野監督が7度、宙を舞った。ともに暗黒時代を支えて来た八木と藪が抱き合っていた。感情をあまり表に出さない今岡が号泣していた。田淵コーチも泣きながら星野監督と固く抱き合っていた。胸がいっぱいになった。言葉にならなかった。長年待ち続けた光景が今、目の前に広がっている。
星野監督 優勝インタビュー(抜粋)
あ〜しんどかった(苦笑)。
(去年、監督はこの甲子園で今年の悔し涙を嬉し涙に変えてみせるとファンに約束しました。
 その約束を果たせましたね。)
そんなに自信は無かったんですけどね。言ってみるもんですね。
本当に選手がファンの夢をかなえてくれました。ありがとう。
この縦じまで、この甲子園で、みんなの前で胴上げされたかった。
今日こうして、皆さんの前で夢に日付をかけることがとうとうできました。
寒い日から、この暑い甲子園でも、必死になって、ファンのために、
そして18年ぶりの夢をかなえてくれた選手にもう一度拍手してやってください。
またこうして皆さんの声援をバックに、選手は日本一を目指して戦い抜きます。
ありがとう! 本当にありがとう! ありがとう!
 本当に夢を叶えてくれた。信じられない様な奇跡を何度も見せてくれた。数えきれないほどの感動を何度も与えてくれた。今年ほど野球の面白さ、素晴らしさを再認識させてくれたシーズンはなかった。途中で何度もファンを辞めようと思ったが、辞めなくて本当に良かった。ありがとう、星野監督。ありがとう、V戦士たち。あなたたちの事を一生忘れないでしょう。今日はあなたたちと一緒に勝利の美酒に酔う事にしよう。(‥‥といっても、これを書いているのは優勝の三日後なんだけど‥‥)(2004年9月16〜18日)