再び暗黒へ‥‥その中で見えた一条の光

 再び暗黒時代がやってきた。不穏な歴史は繰り返された。首脳陣とフロントは、全く理解が出来ないトレード・解雇を断行しました。その代表的なものが野田と松永のトレード、そしてオマリーの解雇でした
 松永は開幕戦こそ華々しかったが、殆ど試合に出ずにその年のシーズン後にダイエーへFA。オマリーの代わりに来る助っ人は役立たずばかり。逆に野田はオリックスで最多勝を取り、オマリーはヤクルトでMVPを獲得する。なぜ、5年連続三割を超えるアベレージを残していたオマリーを解雇するのか。あの、バースのときの悪夢が甦った。アホなことするのにも程がある。その後も留まる所をしらず、関川・久慈を「大型扇風機」大豊・「控えキャッチャー」矢野(結果的には無くてはならない選手となるが)とトレード。逆に星野中日は開幕11連勝から優勝を果たす。やること成す事空回り、というか逆を行く。結果は選手の老朽化、最下位ばく進。あきれてものが言えない。
 再びプロ野球から興味がなくなっていきました。だが悲しいかな、新聞を開けば結果や順位に目が行ってしまう。あと何ゲームで最下位脱出だと計算してしまう。消化試合でもピッチャーが好投すれば来年こそはと期待してしまう。新しいシーズンが始まれば今年こそはと思ってしまう。そんな情けない自分がいました。何度もタイガースファンを辞めようと思いました。だけど、他のチームを応援する事は出来なかった。弱い者が強い者を倒す、そんなロマンに憧れていたのかもしれない。だけど、そんなことは滅多に無かった。弱い者はやっぱり弱かった。
 そんな中、救世主が現れた。野村監督(現シダックス監督)だ。彼は弱い者が強い者に勝てるようにしたいと言った。その期待は、半端ではなかった。なぜなら、あの弱かったヤクルトをわずか数年で日本一にまでした名将だ。近いうちに必ず、優勝までとは言わないまでも、優勝を争えるチームを作ってくれると確信していました。またそれ以上に嬉しかったのが、OB監督にこだわっていたフロントが外から監督を招聘したということでした。やっと、勝つ事に本気になってくれたんだと思った。これで阪神は変わると思った。ペナントが始まり、予想は現実になった。何年か振りの巨人3タテ、何年か振りの首位、野村再生工場による遠山・伊藤敦規の復活、そして遠山→葛西→遠山など奇を衒った采配。選手もID野球を理解し、野球を楽しんでいるように見えた。再び関西は活気づき、黄金の野村人形(100万円)まで出現した。
しかし、現実はそんなに甘くはありませんでした。タイガースは、野村監督就任の3年間、最下位を脱出する事は出来なかった。そして4年目、沙知代夫人の脱税により退団する事になる。複雑な気分でした。ID野球も浸透して来た事だし戦力も整って来た。来年こそは‥‥という想いと、3年やって一つも順位が上がらないのだから、監督変えた方がいいのかな‥‥という想いが両方あった。ともかく、野村監督は「阪神は選手が子供だから‥‥」という言葉を残してタイガースを去って行きました。
 2001年、野村監督がユニフォームを脱ぐちょっと前に、グラウンドを去った男が居ました。和田豊。背番号6。タテジマ一筋で17年。暗黒時代を支え続けた男だ。和田といえば、シーズン56犠打(1988年・当時日本記録)や開幕24試合連続安打(1997年・日本記録)が有名ですが、1,929打席本塁打ゼロという面白い記録も持つ。しかし和田といえばあの芸術的な流し打ちだ。打てないタイガース打線にあって、何度タイガースファンを歓喜させたことだろう。しかし、どんな選手にも必ず引退するときは来る。この年からコーチ兼任となっていたので、本人もこうなる事を予測していたに違いない。引退試合は甲子園最終戦(対巨人)。一番セカンド和田で出場し、2打席目に職人技の流し打ちでライト前ヒット。6回に凡打で退いたとき、和田コールが鳴り止まなかった。みんな、思う事は一緒だった。引退セレモニーでの最後の言葉は感動を呼んだ。
和田豊 引退試合での最後の挨拶
昭和60年、入団1年目で先輩たちに優勝の喜びを教えてもらいました。
自分が現役のうちにもう一度優勝したい、後輩たちにあの喜びを教えてあげたい、
ファンのみなさんと思いきり喜びたい。
ここ数年、その思いだけで野球をやってきました。
「失意泰然」。この言葉をモットーに野球をやってきました。
志半ばで背番号6を球団にお返しするのは心残りですが、
私の夢を、後輩たちに託したいと思います。
これから強くなっていくタイガースで、後輩たちとともに頑張っていきます。
球団関係者、監督、コーチ、選手のみなさん、
日本一の球場を常に用意してくれた阪神園芸のみなさん、
陰ながら支えてくれた裏方のみなさん、マスコミ関係者のみなさん、
そして日本一、世界一の温かい応援をいただいて、
私自身に120%の力を出させてくれた阪神ファンのみなさん、
本当にありがとうございました。
17年間、阪神タイガース一筋の現役生活を全うできることを誇りに思います。
17年間、本当にありがとうございました。

阪神タイガース 和田 豊
 泣いた。涙が止まりませんでした。やっぱり、好きな選手が居なくなるのは寂しい。引退するまでの活躍が頭の中でプレイバックされた。本当にタイガースで幸せだったんだろうか?他の、もっと強いチームだった方が喜ぶことが多かったんじゃないか?そんな事を思ったりしました。和田の技術と人間的な魅力があれば、きっといい若虎が育つ。それを信じて、これからの裏方としての活躍に期待しよう。